ひとの陰玉とぞしづむ初湯かな 阿波野青畝
磯ぎんちゃく足組めば陰しひたぐる 川口重美
陰に生る麦尊けれ青山河 佐藤鬼房
涅槃図や麦生る陰と生らぬ陰 後藤貴子
来迎のひとり残らず陰に鳥 攝津幸彦
卯の花や縦一文字ほとの神 森澄雄
陰かくすごとくに滝の落ちにけり 若井新一
こつあげやほとにほねなきすずしさよ 柿本多映
栗咲けりピストル型の犬の陰 西東三鬼
暗窓に白さるすべり陰みせて 金子兜太
陰の中に滅び入りけり盆の道 齋藤愼爾
陰もあらわに病む母見るも別れかな 荻原井泉水
ほとなしの眠人形ねむらする 三橋敏雄
こんしんのコレクションである。
閑話休題。10年くらい前から小説が読めなくなった。面白そうだと思って読み始めても、10頁、20頁と読み進めるうちにだんだん苦痛になる、いくら読んでも小説を読むこと自体のよろこびのようなものが感じられなくてどうにもつまらなくなる。というようなことを何度となく繰り返した。そのうちに、もう小説は読めないのではないかと思うようになった。そうするとその影響かどうかわからないが、今度は文章を書くのが苦しくなってきた。仕事ではある量の文章を書く必要があってそれはなんとか書けるのだが、それ以外の文章たとえばここに書いているような無駄な文章というものが全然書けなくなった。何をどう書いてもこれは自分が書きたい文章ではないとか書かなくてもどうでもよいものだとかいうように思えて、すべて消してしまうということが続いた。それはなかなか辛い経験だった。
(この項続く)
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