2012年2月12日日曜日


蛇使ひ淋しい時は蛇を抱き 藤村青明

蛇を食ったことがあるというと気味悪がられるのであまり言わないことにしているが、すこし前の日本の田舎ではたいてい蛇を食ったものである。頭を釘で板に打ち付けて体をナイフで裂く。鉄串に刺して軽く塩を振ってから七輪で炙って食うのである。旨いかどうかはもはや忘れた。郷愁もさして無い。蛇はどうでもよいのだが、蛇のことを書いていると、蛇よりもむしろ早春の山の風情が懐かしくなる。懐かしいというと大げさで、去年の春はそこそこ歩いた。ただ、今年はちょっと体を傷めてしまって行けそうにない。そうしてみると、芽吹く直前の木々やら、霜が溶けたばかりの土やらの、匂うか匂わないかの淡いにおいがおもわれて、なんともたまらなくなるのである。あと何年山歩きができるのか、などと年寄りじみた思いも湧いてきたりする。で、まあ山歩きができない代償行為として河川敷を歩いたりしている。ヨシ原を歩いていてモグラの穴だらけだったりすると嬉しくなる。もうじき雲雀が啼く。


蛇穴を出でて黒瞳の人となる  くろやぎ

にんげんみな身中に蛇飼ひし頃

穴二つ残して土龍消えにけり



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