左手は右手の雲丹を知らざりき 櫂未知子
春暁の左手の知る右手かな 長谷川櫂
ポケットの底のボタンを握りおることすら右手はすこしも知らず 山崎方代
知る知らない系。
東京は暗し右手に寒卵 藤田湘子
雑踏をゆく牡蠣提げし右手冷え 佐野美智
右手つめたし凍蝶左手へ移す 澁谷道
右手冷たい系。
わが肩にわが左手の春の暮 攝津幸彦
そういえばそうだ。
左手に右手が突如かぶりつく 阿部青鞋
そういえば逆は無い。左手は控え目。
昼寝覚左手ふいと余りたる 大石雄鬼
余るときも左手。控え目だから。
右手で描く
その手
桑名の左手よ 酒巻英一郎
「その手」から「桑名」が出て来るところに日本文学の命脈がある。
四月馬鹿完全主義の右手かな 内田美紗
ふうん。
夏の雨かすかに触れてゐる右手 夏井いつき
ああ、軒下で雨宿りしていますね、これは。青春でござる。
左手で粽を結ふを見てゐたり 大山文子
これも写生ですね。粽を結うのをさっきからぼーっと見ている。ふと、あらあの人左利きだったのね、と気がつく。その曖昧な時間の流れを逆転して再生してみせている。
右手置く一万年後の春の辺に 高岡修
あ、これはなんだろう。飛び越え方が好き。
石鹸で手を洗っていて、考えごとをしていたのか、単にぼうっとしていたのか、ふと気がつくと右の手と左の手がくねくねと絡み合ったり滑ったりしながら形を変えていく。そのさまが面白くて、自分の手ではないような気がして、しばらく眺めていた。そのことを俳句にしてみようと思ったのだが、なかなか難しいのである。挫折死そう。
とりあえず類想句はあまりなさそうなのでもうちょっとねばる。
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