2012年4月22日日曜日
天網
天網は冬の菫の匂かな 飯島晴子
「天網」などという語は、年寄りが「天網恢々疎にして漏らさず」などと言う時くらいしか使われないものだと思っていたので、意表を突かれた。 しかし、天空に網が広げられているという空想は、これはなかなか詩的であると言えば言える。
辞書によれば、「天網」は老子に出て来る言葉で、天帝が張り巡らした観測網、警戒網のことだそうである。何人も逃れることはできない、と。 それで思い出したのだが、子どもの頃、天空に 誰かがいていつもその目で見張られているような気がしていた。あれは、天網が見えかけていたのかもしれない。
などと漢語をつかって偉そうなことをいうほどのものでもなくて、おてんとうさまと言えば足りることである。もっとも「天道」もまた漢語だ、多分。しかし、天道というと天の道だが天網といえば網である。広がる空想は大きく異なる。そこが詩語。
天網に青条揚羽捕らはるる くろやぎ
網があれば蝶がつかまる。なんという単純な真理。青条揚羽はアオスジアゲハ。片仮名で書けば分かりやすい。漢字で書くともっともらしい。
天網に囚はれたまま死なぬ蝶
その条を星座となして果つるとや
天網に捕まったら死ぬのか、死なぬのか、そこがわからない。「老子」には書いてあるのだろうか。
天網の夜更けて蜘蛛の這い出る
天網の主北天を登り詰め
網と言えば蜘蛛、蜘蛛と言えば網である。単純なる真理。天空一面に網を張りめぐらせた天帝の正体とは、何を隠そう天の蜘蛛であったのであった。
天網のあれは穴だと思ふ月
網といえば穴がつきものである。これまた単純な(略)。網に空いた穴からは天上の光が射し込むのだろう。
さて、天帝たる大蜘蛛は天網の穴を繕ふことができるのか! はたまた、天網に捕らえられたるアオスジアゲハの運命や如何に! (つづく、かも)
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