2012年4月9日月曜日

ウルトラ


高山れおなの第一句集「句集 ウルトラ」の古本が比較的安価でアマゾンに出ていたので買った。どれくらい安価かというと送料込みで新刊定価とほぼ同額。ただし「帯に少し痛みがあるのみ」という説明とはウラハラに、本文中に多少とはいえ走り書きの書き込みがある立派な古本。しかもボールペンだし…… 私は仕事関係で読み捨てにする本以外では書き込みをする習慣がないので結構驚く。

佐保姫や死を愕かす美斗能麻具波比

この句に「ミトノマグアヒ」と振り仮名の書き込みがある。こう書くと普通のことのようだが、じつはここにはもともと「みとのまぐはひ」と平仮名でルビが振ってある。前所有者氏はそのルビが気に入らなかったらしい。

第一句集と書いたが、わたしが買ったのは平成20年発行の新装版。元は平成10年に沖積舎からでていて、10年経って同じ沖積舎から新装再刊されたもの。うえに新刊定価と書いたのは新装版のものである。ちなみに第二句集である「荒東雑詩」はアマゾンに出店している古本屋が送料別九○○○円の値札をつけていて手がでない。第三句集は去年の暮れか今年の新春には出るはずとどこかで読んだが、桜咲いたにまだ出ない。

一読して最初の感想は、たいへんに端正な姿形をした句が多いということ。そもそも字余り字足らずの句がほとんどない。そこかよと言ふべからず、大切なことである。ためしに五七五から外れるものを書き出してみる。

未来輝き顔が映らぬ初鏡

泣く社長へ叫ぶ社長の賀状かな

春や近江の爪切る音が武蔵まで

富士すなはち大首塚や江戸の春

芭蕉けふは女なりけり春怒濤

頬掠めしや雲に入る鳥の腰 

桜鯛のやうに食はれてみたきかな

殺生関白貌を隠さぬ朧かな

その顔は藤房に隠されてゐる

苧環(をだまき)と夜な夜な闘ふ千葉市長

娘あらば遊び女にせむ梨の花

過去仏(くわこぶつ)の過去の乱交の裔(すゑ)か海市は

総金歯の美少女のごとき春夕焼

陽炎つてしまふ他なし手に手に太刀

ほとんどないと思っていたが、書き出してみたら結構あった。ここまで、新年21句、春季66句のうちざっと14句。多少見落としもある。まあよい。もう抜き書きはしないが、ここにある字余り句からも想像されるとおり、全編を通してかたちが整っていて強靱な定型感を感じる句が多い。ちなみにここまで87句のうち、前所有者がボールペンでレ印をつけた句は2句あって、うち一つが「総金歯」の句だった。なるほどこういうのがお好きなんですねなど思う。

それはさておき、上に揚げた字余りの14句をみただけでもわかることだが、たいへんに多彩な句構造を見ることができる。「富士すなはち大首塚や」、「芭蕉けふは女なりけり」なんて、私には思いも付かない言い回しである。「頬掠めしや」というのも、ああ「や」は何にでもつけられるのだなあなどと初心者として感嘆しきり。しかも「鳥の腰」とはなんとテクニシャン。

技術を駆使して組み上げられた句構造にはカラフルで絢爛豪華な語彙が嵌め込まれる。しかし花鳥諷詠的何かが盛りつけられることはなく、そうかといって抽象語切り貼り的前衛(俳句史業界用語としての「前衛」)からはむしろどんどん遠ざかっている。感慨とか意味とかいったマジメっぽいことから逃げよう逃げようとしているように見える。耽美な冗談。これはあれだな、詩とか小説とかの文学よりも現代美術のセカイに類似物が多い気がする。村上隆とか草間弥生とかあるいはもっと若い世代とか。そうか。そう考えてからあらためて「これはコンテンポラリ・アートだ」と思って句集を読み返してみると妙に腑に落ちてしまうところがあったりなかったりするのである。










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