初蝶が大西順子なら死ねる
言うまでもないけど大西順子さんてのはジャズピアニストです。
大阪の高槻で五月のゴールデンウィークにジャズストリートというのがある。その辺の飲み屋とか喫茶店とか焼鳥屋とかお寺の境内とかJRの線路下とか教会の前庭とか児童公園とかもっと大きい公園とか農協とかデパートの屋上とか学校の校庭とか市民ホールの視聴覚室とか小ホールとか大ホールとか周回バスの車内とか文字通り至るところでジャズが演奏される。2日間ずっと続く。似たようなイベントは各地で随分増えてきたがここで20年近く前から毎年やってる。すべて入場無料。飲み屋とか喫茶店とかはワンドリンク。演奏する人にも一杯飲んでほしいと思ったらチップ。
有名な人もでる。無名な人も出る。たくさんたくさん出る。無名と言ってもおれが知らないからおれに無名と言われてしまうだけでおれが毎年行っているとおれが名前を覚える人は増えるからそういう意味で有名人の出演は毎年増えている。そんなこんなの有名人の一人として去年のことここに初めて大西順子がトリオで出た。会場はジャズスト最大の1,000人くらい入るホールで穐吉さんとか日野さんとかも来るとここでやる。笹井さんもここでやることがある。それで実はここに入るには結構並ばなくてはならない。ホールの2階入り口から階段を下りて駐車場を突っ切って隣のグラウンドまで行列が続く。折り畳み椅子を持ってきて座ってずっと待ってる。グラウンドでも何かの演奏をしてるから並びながらそっちを聴いてる。あと屋台で買ってきたうどんぎょうざとビール。近所の爺ちゃん婆ちゃんとかおじちゃんおばちゃんおにいちゃんおねいちゃんいろんな人がそれこそ伝説の大蛇のようなぐねぐねの列を作ってとにかく沢山並んでる。
大西順子さんてのはすごいピアニストなんだけど何年か前にもう引退するとか言いだして辞めちゃった。その人が高槻に来てジャズストに出るのである。といっても並んでる人の中で大西順子の名前を知ってる人はたぶんあまり多く無いんじゃないかとふと思う。いやそう言い切ることはできないけれどたぶん多数派ではないのではないかなと。それはそういうイベントだから。みんなここでジャズを聴くのが好きだから。おれも友達から教わってたまたま知ってただけだし。
で開場するとあっという間に1,000人くらいの大ホールがぎゅう詰めになる。とにかくぎゅう詰め。大西順子でなくてもいつもぎゅう詰めだがとにかくぎゅう詰め。普通の公演とは若干違う意味のぎゅう詰め。どう意味が違うかは自分の目で見ないと分からないそんな意味においてのぎゅう詰め。1グループ1セットが1時間で3セットでワンステージ。入れ替えがあるから1セットは実質45分くらい。短いから油断してるとすぐ終わるので集中して聞く。
で大西順子トリオ。1曲目からいきなり全開。すごい全開。あれ客席の空気がなんか変。爺ちゃんも婆ちゃんも息を呑んで聞いてる。おれも息が苦しい。で1曲終わった途端にすごい拍手。しかも鳴り止まない。普通のコンサートとかライブとかでラストに拍手が鳴り止まないってことはある。でも鳴り止まないと言ってもそのうちに鳴り止む。常識的な線がある。まあせいぜい30秒とか凄いときで1分くらい? 1分拍手が鳴り止まなかったら相当にすごい。それがその大西順子トリオの1曲目の拍手はそれどころではない。ホントに全然鳴り止まない。しかも1曲目。途中で大西順子がマイクで割って入ったがそんなことはものともしない。とにかく拍手が全然鳴り止まない。大西順子は困ったような驚いたような顔をしてる。いつまで続くのかと思ってそれでも鳴り止まなくてまたいつまで続くのかと何回か思っているうちにようやく鳴り止んだ。
あんなところにいられてなにもかもがほんとによかったです。